お役所は洋モノ好き?
資産運用立国の施策についてはこれまでもいろいろ書かせてもらいましたが、折に触れて引っかかるのは当局としてやたらに外国ものに対する思い入れが強すぎるのではないか、という点です。2.19日付の年金情報の特集号では金融庁の方の「資産運用立国プランと金融行政」というタイトルの講演録が掲載されていたのですが、そのなかで「「金融・資産運用特区」では・・・海外の有能な資産運用業者に入ってもらうことにつなげたい」といった記述がありました。ちょっと引っかかったので、もしかしたら過去のエントリーとの繰り返しになるかもしれませんが、あえて書かせてもらいます。
最近のポリティカルコレクトネスの風潮についてはどうかと思うことも多いですけれど、さすがにこれは国内の運用業者は無能であるという意味になりますので、当局者としてはやや慎重さを欠いた発言ではないか、と考えています(懸命に怒りを抑えた書き方にしております)。
海外だから有能なのではなく、特定の会社が有能、あるいは個人が有能なのであって、海外という属性で切って判断することは不適切と思います。同じことを採用の場で「男性の有能な候補者」とか書いたら一発アウトでしょうし、xx大学卒の有能な候補者なんてのも同じです。そういう先入観に満ちたコメントは、酒の席だけにしてもらいたいものです。
残念なことは、これが単なる口が滑ったわけではなさそうであるということです。当該官庁は心の底からそう思っている節がある。例えば今回の施策のベースとなる議論を行う資産運用におけるタスクフォースなどのメンバーでも日本人ではあるものの運用会社からは外資だけが参加していたりする。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/sisanunyou_dai4/siryou3.pdf
まあ一部出向や派遣を通じて外国系の金融業者から人が行っているということもあるかもしれませんが、クレディなんちゃらさんのいろいろな不始末とかもうお忘れでしょうか、といったことは少し言いたくなりますし、国内系と目されている会社においても、やはり外資を渡り歩いて実績をがつがつ追い求めるタイプの営業が不具合を巻き起こしてきている例は多いはずです。
そもそも運用能力などというものは短期で計測すべきものでもないし、厳密にはなかなか判断が難しいものです。人にお金を預ける立場としては、担当している人々の考え方や哲学などを吟味して、いわばその哲学に共感しつつ過去の実績などの能力を吟味して預け先の運用機関を選ぶのですが、それでも市場では公的な主体、例えば日銀などがやたらETFを買ったりする市場では市場機能が歪められてしまって想定通りにいかないこともある。「海外の有能な」という枕詞がどういう根拠でどういうデータをもとに語られているのかは非常に興味があるところです。さらに言えばデータの点でも本当に海外は有能なのか?という疑問を呈することができます。
https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20230421-2.html
上記リンクは2023年の金融庁さんの資産運用高度化プログレスレポートにおまけでついていたものですが、各マザーマーケットの株のアクティブマネージャーに関しては日本が米国や欧州よりもたくさんアルファを出しているというデータです。ますます、海外って有能なんだっけ?という疑問があるので、どなたかその背景をぜひ教えていただきたいものです。
腹立ちついでに言わせてもらうと、SNSでも議論になっているようですが、今回の新NISAで真っ先に日本の人々が飛びついたのがグローバルな株価指数をベースとする国際分散投資型のインデックスファンドでした。日本を含むものふくまないもの両方にかなりのお金が流れましたが、まずは過去の成長格差とそれに基づくパフォーマンス格差、さらには円安傾向というのがあるので、まあそれ自体は仕方ないし、外国ものに行くな、という規制なんかやるのも制度的に適切ではないと思います。しかし、その効果や今後のことをお役所としてはある程度大きなレベルで考えていただく必要はあるのでは、と思っています。今起きているのが資本流出の端緒かもしれません。国内貯蓄が海外投資に流れることは、もし規模が大きくなれば将来の国債購入原資の減少ともなり、ファンディングの問題から日本国の信用リスク等に跳ね返るかもしれません。同時に通貨安を招いてしまうことで、インフレが高騰し、ますます国内金融資産の価値が目減りすることになります。これらを考えると、資産運用立国だけではまずいのであって、国内に投資を呼び戻すような施策、それが金融なのか産業なのかいろいろあると思いますが、それとの同時実施が必要だと思うのです。アベノミクス以来国民はかなり馬鹿にされてきて、資産価値さえ上がれば喜ぶだろうと高をくくられてきている。しかしその弊害が次第に明らかになりつつある今、国の政策としてやはり本筋である産業育成とそのための投資というところをきちんと並行させる必要があります。
ところが、最初に書いたお役所の方の講演の質疑応答の回答では少し失望しました。質問者が、金融庁のタスクフォースにおいて企業年金(資産運用立国プランでは大きなテーマ)への言及がほとんどないことの理由を問われて、それは厚労省の管轄だから、とあっさり逃げてしまっているのです。まあ確かに金融庁は金融機関の監督官庁としての役割であるとはいえ、このテーマは先ほど書いたように大きな視野と国家的レベルでの協働が必要になる分野なので、あまり露骨に縄張り色を出してほしくなかったなぁと感じました。この調子なら、金融庁、厚労省、経産省などがまったく協働しないまま非効率な活動に走ってしまうリスクもあると思います。
首相の肝いりなのだから、その辺は首相がちゃんとリーダーシップをとってくださってコーディネイトしてくれるとは思いますが、やや前途に暗雲を投げかけている気がしました。
最後に、大事なことなのでもう一度言いますが、運用機関に関して「海外」だから「有能」であるかのような言い方は監督官庁としても不適切であると思います。これには昨今の理由なき差別(男女、年齢、学歴、人種その他)への批判がそのまま当てはまると思うので、ちょっと気を付けられたほうがいいのでは、と感じました(かなり抑えて書いてます)。
この記事へのコメント