金融経済教育推進機構と「認定アドバイザー」
ご存じのとおり、岸田首相の「資産運用立国」論から出てきたアイデアです。
日経新聞の記事から。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78055760Z20C24A1DTA000/
金融経済教育推進機構については現状こちらの記事がわかりやすいと思います。
https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2023/20231205.pdf
うーん、金融教育が必要だというのはわかるんですが、あえて役所のような組織を作って屋上屋を重ねようとしている気がします。上記リンクの金融庁の方が書かれた内容を見ると、どうしても、金融庁側からの民間に対する根深い不信感が前面に表れつつ、どさくさに紛れて役所の息のかかったエリアを増やしていこうという感じが露骨で、どうなのかな、と思います。
上記金融庁の方が書かれている「・・・「金融経済教育推進機構」の全容」なる文書(以下「全容」)を拝見すると、いくつかとても気になる点が目につきます。
一番気になるのは、「認定アドバイザー」制度。「組織に属さず中立的な立場でアドバイスする人」というのは、まあ金融機関特に販売に関係する会社に所属しているとどうしても利益相反的な行動が起きやすいというのは理解できます。しかし、その一方で、そういう人って我々がまず具体的なイメージとして思い描くのは、テレビなどにもよく出ている方々で、ご自身が最大手保険会社で美味しい思いをしていたのに保険のことをぼろくそに言う人たちとか、ろくな金融知識もない割に分散投資が悪だと断言してしまう方とか。金融庁様がイメージされているのはこういう方々なのでしょうか。はっきり言いますが、金融商品の知識は、組織に属していたほうがはるかに深みのあるものとなります。問題はそれをどう使うかの問題です。
この認定アドバイザーが一体どこまでやることを期待されているのか、という点はかなり重要です。まず金融商品取引法とのからみで「投資助言業」にあたるような行動、つまり個別の有価証券の価値分析に基づく投資アドバイスまでできるとなるとこれはかなり大きな話です。投資助言業者に対しては金商法上で届け出による網がかかっているうえ、投資顧問業協会ではこうした助言業者に対して自主規制ルールの順守状況などの報告を求めて体制も含めて厳しくチェックしています。まさか同じレベルまでできることを期待されてはいないと思うし、そこは業務的な制限がかかると思っています。しかし一方で「全容」ではこの認定アドバイザーがアドバイスサービスによって生計を立てていくことまで想定しているような記載があります(P5)。顧客の立場から、具体的な金融商品に言及しないアドバイスだけでどれだけフィーを払う人がいるのか、つまり、やはり個別の顧客へのアドバイスはFPなり投資助言業者なりにちゃんとやらせればいいのではないか、この認定アドバイザーなるものの役割は何なのか?という疑問が残ります。そして先ほども書いたように認定アドバイザーが、関連する「顧客本位タスクフォース」の中間報告の表現では、「金融商品の販売を行う金融事業を兼任しておら」ないことをアドバイザーの基準とするならば、その知識が果たして現実に即したもの、つまりフィーをとるに値するレベルになるかどうか甚だ疑問といわざるを得ません。一般論なら学校や地域のセミナーでやればいいし、そこに一定の資格者を送り込むことには異論はないものの、あえて新しい「認定アドバイザー」なる資格創設する意味が全く理解できないのです。
もちろん、金融庁の側でも認定アドバイザーとして認める基準の一つに既存のFPや士業などを含めるつもりのようです。それでも、やはりこの「認定アドバイザー」の資格によって新たに可能になる業務というのは非常にあいまいですから、あえて作る必要があるのか、という疑問は残ります。
はっきりとは書かれていませんが、この認定制度の設計として一定の試験を課すとなるとまた問題です。そうなると高い受験料を取って、金融庁の息のかかった団体が主催するようなものになるんでしょう。金融機関でお勤めの方に置かれては「コンプライアンス・オフィサー」試験、「個人情報保護オフィサー」試験などで十分お分かりと思いますが、全く資格として何の役にも立たないものを受けさせられ、金融庁様からの会社に対する間接的な締め付けを受けた経営陣がこうした資格を昇進の要件にしてしまっていたりするものですから、無駄なお金が消えています。ほとんどの会社は受験料ぐらいは補助しているでしょうけれど、いずれにしても役所の焼け太りみたいなことが起こっていると思っています。今回の「認定アドバイザー」については、金融機関などの組織に属さないことが前提となっているのでしょうが、いずれにしても無駄な話におもえますし、やはり無駄をいとわない役所の勢力拡大欲を強く感じてしまう事例かなと思っています。
もう一つ、「全容」を拝見して非常に強く感じたことですが、この金融リテラシーの強化というテーマについて非常に中央集権的に実施しようとしているところです。たとえばP4にある(2)学校・企業等への講師派遣、というなかで
「機構では、後述する認定アドバイザーを活用しながら、より多くの国民に金融経済教育を提供できるように、講師派遣を広範に実施していく予定」
「講師派遣を含めた金融経済教育に関する各種の取り組みは、機構の下で集約することが望ましいが、これは必ずしも個々の金融機関等の自主的な取り組みを妨げるものではなく、機構と多くの金融機関が緊密に連携しながら、金融経済教育を推進していくことが重要である。例えば、機構と金融機関の連携例として、機構が金融経済教育に関する教材等を作成した上で、個々の金融機関が、その教材等を活用しながら、地域の特性やニーズに合わせて教育を提供するといったことが考えられる。」
また同ページの一番下に
「機構では、全銀協や日証協等の各団体等で重複する教材等をできる限り集約する。」
(下線は筆者)
まあ民間金融機関がそこまで信頼されていなかったとは思いもよりませんでしたが、この書きぶりだと、機構(=金融庁)がテキストを作成し、原則それにのっとった金融教育のみ行っていい、という風に読めます。そして原則は例の「認定アドバイザー」、どこの馬の骨かわからない人が混じる可能性もある「認定アドバイザー」が講師となる。まあだからこそ国定教科書のようなものを作る必要があるということなんでしょうが、つまり金融教育を公教育の中に「指導要領」的に位置づけようとしているわけで、うーん、まあばらつきを防ぐという意味では分からないわけではないけれど、国家はそんなに金融の世界に対して上から目線で正解を語れる存在でもないような気はしています。一般的な正解だけ伝えるのに、ここまで大げさな組織から立ち上げる必要があるのかなと。謙虚さがやや欠けた感じを受けました。
ところで、現在はいくつかの運用会社や金融機関は積極的にHPやSNSあるいは書籍などを使った金融教育的な試みを行っています。こういう試みは当然長期的な自社への評価を高めるという形で、目先の利害を抜きにしているし、多くの場合運用に携わるものとしてのプライドというか、責任感というか、国民が間違った方向に向かわないようにという思いを込めて、あえて損得抜きでやっている面もあると思います。果たしてこうしたものが今後は国定教科書をベースにしたものに制限されるのかどうか、この辺も非常に興味があるところです。
そもそも役所がこうした教育にどれだけ影響力を及ぼせるのか、という点は、まさに「全容」で「語るに落ちる」という感じで「金融リテラシー・マップ」(14年に金融経済教育推進会議が公表)というのを基準としてきたと書いてあるのですが(P3)これを知っている人は国民にどれぐらいいるんでしょうか?ワタクシも不勉強で存在(同会議の存在も含め)すら全く知りませんでした。ですから、あまり鼻息荒くしないほうが身のためだと思うのです。
まあもともとの問題意識が「金融経済教育の担い手が金融関係団体や金融機関では、金融商品の販売・勧誘が目的ではないかと疑われ、受け手から敬遠される・・・」ため教育が行き届いていなかったというところにあるようなのですが、具体的なアドバイスという点では、外部の人は内部の人より総じて情報量が少ないため、なかなか難しいのではないかと思っています。
あと、もう一つ気になるのは、この組織が民間からの冥加金をあてにしているということです。(「全容」P3(4)設立・運営経費)。「年間の予算規模は約20億円であり、うち9割以上は民間からの拠出金で賄う」らしいですが、今までであれば多少お金をかけても長期的な広告効果なども考えた教育に積極的だった金融機関が、「国定教科書」のみ利用した教育への協力と資金拠出まで求められる、というのはどうも納得感が少ないように思います。民間主導という建付けを重視したのでしょうが、ここでこんなこと書いてしまうあたりが全然そうなってないと思いますね。
あくまで個人的な意見ですが、ワタクシは、「金融リテラシー」教育はこのような機構や資格制度など作らなくても既存の資格などを活用し、またこれまで通り民間のイニシアティブを有効活用すれば十分対応できそうなテーマだと考えています。むしろそのほうが身になる教育もできるし、金融機関に勤める人々にとってもやりがいがさらに生まれ、国全体の力を押し上げる効果が生まれやすいのではないかと思っています。あえてこの期に及んでとってつけたようにこのような機構や資格を作ることが役所の拡大欲というか勢力増大本能を満足させるだけのものに終わるような気がしています。
日経新聞の記事から。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78055760Z20C24A1DTA000/
金融経済教育推進機構については現状こちらの記事がわかりやすいと思います。
https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2023/20231205.pdf
うーん、金融教育が必要だというのはわかるんですが、あえて役所のような組織を作って屋上屋を重ねようとしている気がします。上記リンクの金融庁の方が書かれた内容を見ると、どうしても、金融庁側からの民間に対する根深い不信感が前面に表れつつ、どさくさに紛れて役所の息のかかったエリアを増やしていこうという感じが露骨で、どうなのかな、と思います。
上記金融庁の方が書かれている「・・・「金融経済教育推進機構」の全容」なる文書(以下「全容」)を拝見すると、いくつかとても気になる点が目につきます。
一番気になるのは、「認定アドバイザー」制度。「組織に属さず中立的な立場でアドバイスする人」というのは、まあ金融機関特に販売に関係する会社に所属しているとどうしても利益相反的な行動が起きやすいというのは理解できます。しかし、その一方で、そういう人って我々がまず具体的なイメージとして思い描くのは、テレビなどにもよく出ている方々で、ご自身が最大手保険会社で美味しい思いをしていたのに保険のことをぼろくそに言う人たちとか、ろくな金融知識もない割に分散投資が悪だと断言してしまう方とか。金融庁様がイメージされているのはこういう方々なのでしょうか。はっきり言いますが、金融商品の知識は、組織に属していたほうがはるかに深みのあるものとなります。問題はそれをどう使うかの問題です。
この認定アドバイザーが一体どこまでやることを期待されているのか、という点はかなり重要です。まず金融商品取引法とのからみで「投資助言業」にあたるような行動、つまり個別の有価証券の価値分析に基づく投資アドバイスまでできるとなるとこれはかなり大きな話です。投資助言業者に対しては金商法上で届け出による網がかかっているうえ、投資顧問業協会ではこうした助言業者に対して自主規制ルールの順守状況などの報告を求めて体制も含めて厳しくチェックしています。まさか同じレベルまでできることを期待されてはいないと思うし、そこは業務的な制限がかかると思っています。しかし一方で「全容」ではこの認定アドバイザーがアドバイスサービスによって生計を立てていくことまで想定しているような記載があります(P5)。顧客の立場から、具体的な金融商品に言及しないアドバイスだけでどれだけフィーを払う人がいるのか、つまり、やはり個別の顧客へのアドバイスはFPなり投資助言業者なりにちゃんとやらせればいいのではないか、この認定アドバイザーなるものの役割は何なのか?という疑問が残ります。そして先ほども書いたように認定アドバイザーが、関連する「顧客本位タスクフォース」の中間報告の表現では、「金融商品の販売を行う金融事業を兼任しておら」ないことをアドバイザーの基準とするならば、その知識が果たして現実に即したもの、つまりフィーをとるに値するレベルになるかどうか甚だ疑問といわざるを得ません。一般論なら学校や地域のセミナーでやればいいし、そこに一定の資格者を送り込むことには異論はないものの、あえて新しい「認定アドバイザー」なる資格創設する意味が全く理解できないのです。
もちろん、金融庁の側でも認定アドバイザーとして認める基準の一つに既存のFPや士業などを含めるつもりのようです。それでも、やはりこの「認定アドバイザー」の資格によって新たに可能になる業務というのは非常にあいまいですから、あえて作る必要があるのか、という疑問は残ります。
はっきりとは書かれていませんが、この認定制度の設計として一定の試験を課すとなるとまた問題です。そうなると高い受験料を取って、金融庁の息のかかった団体が主催するようなものになるんでしょう。金融機関でお勤めの方に置かれては「コンプライアンス・オフィサー」試験、「個人情報保護オフィサー」試験などで十分お分かりと思いますが、全く資格として何の役にも立たないものを受けさせられ、金融庁様からの会社に対する間接的な締め付けを受けた経営陣がこうした資格を昇進の要件にしてしまっていたりするものですから、無駄なお金が消えています。ほとんどの会社は受験料ぐらいは補助しているでしょうけれど、いずれにしても役所の焼け太りみたいなことが起こっていると思っています。今回の「認定アドバイザー」については、金融機関などの組織に属さないことが前提となっているのでしょうが、いずれにしても無駄な話におもえますし、やはり無駄をいとわない役所の勢力拡大欲を強く感じてしまう事例かなと思っています。
もう一つ、「全容」を拝見して非常に強く感じたことですが、この金融リテラシーの強化というテーマについて非常に中央集権的に実施しようとしているところです。たとえばP4にある(2)学校・企業等への講師派遣、というなかで
「機構では、後述する認定アドバイザーを活用しながら、より多くの国民に金融経済教育を提供できるように、講師派遣を広範に実施していく予定」
「講師派遣を含めた金融経済教育に関する各種の取り組みは、機構の下で集約することが望ましいが、これは必ずしも個々の金融機関等の自主的な取り組みを妨げるものではなく、機構と多くの金融機関が緊密に連携しながら、金融経済教育を推進していくことが重要である。例えば、機構と金融機関の連携例として、機構が金融経済教育に関する教材等を作成した上で、個々の金融機関が、その教材等を活用しながら、地域の特性やニーズに合わせて教育を提供するといったことが考えられる。」
また同ページの一番下に
「機構では、全銀協や日証協等の各団体等で重複する教材等をできる限り集約する。」
(下線は筆者)
まあ民間金融機関がそこまで信頼されていなかったとは思いもよりませんでしたが、この書きぶりだと、機構(=金融庁)がテキストを作成し、原則それにのっとった金融教育のみ行っていい、という風に読めます。そして原則は例の「認定アドバイザー」、どこの馬の骨かわからない人が混じる可能性もある「認定アドバイザー」が講師となる。まあだからこそ国定教科書のようなものを作る必要があるということなんでしょうが、つまり金融教育を公教育の中に「指導要領」的に位置づけようとしているわけで、うーん、まあばらつきを防ぐという意味では分からないわけではないけれど、国家はそんなに金融の世界に対して上から目線で正解を語れる存在でもないような気はしています。一般的な正解だけ伝えるのに、ここまで大げさな組織から立ち上げる必要があるのかなと。謙虚さがやや欠けた感じを受けました。
ところで、現在はいくつかの運用会社や金融機関は積極的にHPやSNSあるいは書籍などを使った金融教育的な試みを行っています。こういう試みは当然長期的な自社への評価を高めるという形で、目先の利害を抜きにしているし、多くの場合運用に携わるものとしてのプライドというか、責任感というか、国民が間違った方向に向かわないようにという思いを込めて、あえて損得抜きでやっている面もあると思います。果たしてこうしたものが今後は国定教科書をベースにしたものに制限されるのかどうか、この辺も非常に興味があるところです。
そもそも役所がこうした教育にどれだけ影響力を及ぼせるのか、という点は、まさに「全容」で「語るに落ちる」という感じで「金融リテラシー・マップ」(14年に金融経済教育推進会議が公表)というのを基準としてきたと書いてあるのですが(P3)これを知っている人は国民にどれぐらいいるんでしょうか?ワタクシも不勉強で存在(同会議の存在も含め)すら全く知りませんでした。ですから、あまり鼻息荒くしないほうが身のためだと思うのです。
まあもともとの問題意識が「金融経済教育の担い手が金融関係団体や金融機関では、金融商品の販売・勧誘が目的ではないかと疑われ、受け手から敬遠される・・・」ため教育が行き届いていなかったというところにあるようなのですが、具体的なアドバイスという点では、外部の人は内部の人より総じて情報量が少ないため、なかなか難しいのではないかと思っています。
あと、もう一つ気になるのは、この組織が民間からの冥加金をあてにしているということです。(「全容」P3(4)設立・運営経費)。「年間の予算規模は約20億円であり、うち9割以上は民間からの拠出金で賄う」らしいですが、今までであれば多少お金をかけても長期的な広告効果なども考えた教育に積極的だった金融機関が、「国定教科書」のみ利用した教育への協力と資金拠出まで求められる、というのはどうも納得感が少ないように思います。民間主導という建付けを重視したのでしょうが、ここでこんなこと書いてしまうあたりが全然そうなってないと思いますね。
あくまで個人的な意見ですが、ワタクシは、「金融リテラシー」教育はこのような機構や資格制度など作らなくても既存の資格などを活用し、またこれまで通り民間のイニシアティブを有効活用すれば十分対応できそうなテーマだと考えています。むしろそのほうが身になる教育もできるし、金融機関に勤める人々にとってもやりがいがさらに生まれ、国全体の力を押し上げる効果が生まれやすいのではないかと思っています。あえてこの期に及んでとってつけたようにこのような機構や資格を作ることが役所の拡大欲というか勢力増大本能を満足させるだけのものに終わるような気がしています。
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