マイナンバーの憂鬱
マイナンバーカードをめぐる問題点が続発し、国は総点検を指示したとのことです。ワタクシに言わせれば、問題の根源はシンプルであり、マイナンバーの重要性とカードの利便性をいいとこどりしようとした結果、混乱が生じているということです。
マイナンバーというのは、究極の国民のIDとなりえます。その番号に対し特にその人の金融取引を中心としたデータが紐づけされることで、社会保障システムの安定性や税の捕捉を高めつつ金融取引の安全を図ることが第一義的な目的です。米国では類似の制度として社会保障番号(SSN)があり、実際には年金等の社会保障システムの管理番号ですが、それこそ金融取引はもちろんのことお金の絡む多くの場面でその番号が必要となります。例えば銀行口座やクレジットカードの登録などはいうに及ばず、保険取引、納税その他さまざまな取引がこの番号と紐づけされていて、この番号なしでは米国生活はかなりしんどいものとなるでしょう。ワタクシが20年ほど前に米国に着任したとき、出社してその日のうちに真っ先にやったのが社会保障オフィスに出向いてこの番号を申請することでした。
アメリカでは当時はまだ「紙」のカードに番号と名前だけが印字されているという粗末なものでした(今はたぶんプラスチックカードだと思います)。ただ、重要なのはこの番号そのものであって、カードではないので、何の支障もないわけです。言い換えると、このカードを持参していなければできない取引というものはなく、必要な場合にその番号を何らかの申込書に記載することができれば、あとは相手方のほうでそれを照合して良しなに取り扱ってくれる。番号制度とはこういうものだと思います。名前や住所と同じく、当然自分で知っているべきもの、という扱いです。
ところが、日本における最大の失敗は、マイナンバー「カード」という持ち運びを前提としたカードにいろいろな役割を持たせようとしたことです。不幸なことにというか、日本の場合戸籍や住民票や印鑑証明なるものがいまだに重要で、それらを管理する住民基本台帳などがあり、マイナンバーカード以前は「住基カード」や「印鑑登録証」といったものが自治体から発行されていてこれらの書類の発行に使われていたわけです。日本の個人情報がそういった戸籍・住居ベースのものであるという制約が、マイナンバー「カード」によってこれら住基カードや印鑑登録証の後継を担わせることになったのだと思いますが、本来必要だったのは従来のカードの情報を付与されたマイナンバーに紐づけさせるという作業であって、マイナンバーカードにすべて置き換える必要があったのかどうかは疑問です。健康保険証などはその最たるもので、医療行為とマイナンバーとはあまり関係なさそうに思いますし、そもそも医療機関に出向いて診察を受ける際にカードを持ち歩く必要がでてくるので、紛失の危険も高まります。究極の個人ID番号に加えしかもご丁寧に住所や生年月日などまで記入されたカードを持ち歩かせるというセンスの悪さだけでも、考えたやつは極刑に値すると思います。
実際に、住民データとの紐づけに失敗しているケースや、保険証との紐付けに失敗しているケースが続発しているようです。関係者一同、荒川の河川敷で腹を切るぐらいのレベルのずさんさ。さらに問題は、こういうリスクが残っているにもかかわらず、カードの取得促進のために巨額の国費を使ったキャンペーン(マイナポイント)を実施したことです。ワタクシは一応カードを取得しましたが、当時健康保険証を廃止して組み込むという話はありませんでした。まあせいぜい近所のコンビニで証明書類を取得するぐらいでは紛失もしないだろうと甘く見ていました。(マイナポイントはしっかりいただきましたが)。ですから、こうした問題が出てきてしまうと、国民に大きな動揺を与えてしまいます。政府はこれはシステムの問題ではなく入力などの人為的ミス、という立場のようですが、そもそも、番号自体は国民に割り振られているわけですから、事務ミスが起こったきっかけはマイナポイントの付与を餌に一気にカードを作らせようとした政策のミスです。そしてIDが間違っている、というまさに制度の根幹にかかわる問題が発生してしまい、すでに大きな不安を与えてしまっているという点で制度設計としては取り返しのつかないミスといえます。
ワタクシ自身は個人番号制度には賛成です。国家が国民や住民の一人一人について、特に金銭面においてしっかり管理することは、税の公平性、社会保障の公平性やそれらの制度設計の変更などに大きなメリットがあると思います。反対する人は「やましいところ」がある人ではないか、としか思っていません。しかし、番号制度とカードは全く次元の異なる話なのです。どこでどう議論が間違ったのかわかりませんが、いまでも、そもそもこんな大そうで立派なマイナンバー「カード」は必要なかったと思います。カードについては即刻無効として、制度設計をやり直すべきだと思っています。
マイナンバーというのは、究極の国民のIDとなりえます。その番号に対し特にその人の金融取引を中心としたデータが紐づけされることで、社会保障システムの安定性や税の捕捉を高めつつ金融取引の安全を図ることが第一義的な目的です。米国では類似の制度として社会保障番号(SSN)があり、実際には年金等の社会保障システムの管理番号ですが、それこそ金融取引はもちろんのことお金の絡む多くの場面でその番号が必要となります。例えば銀行口座やクレジットカードの登録などはいうに及ばず、保険取引、納税その他さまざまな取引がこの番号と紐づけされていて、この番号なしでは米国生活はかなりしんどいものとなるでしょう。ワタクシが20年ほど前に米国に着任したとき、出社してその日のうちに真っ先にやったのが社会保障オフィスに出向いてこの番号を申請することでした。
アメリカでは当時はまだ「紙」のカードに番号と名前だけが印字されているという粗末なものでした(今はたぶんプラスチックカードだと思います)。ただ、重要なのはこの番号そのものであって、カードではないので、何の支障もないわけです。言い換えると、このカードを持参していなければできない取引というものはなく、必要な場合にその番号を何らかの申込書に記載することができれば、あとは相手方のほうでそれを照合して良しなに取り扱ってくれる。番号制度とはこういうものだと思います。名前や住所と同じく、当然自分で知っているべきもの、という扱いです。
ところが、日本における最大の失敗は、マイナンバー「カード」という持ち運びを前提としたカードにいろいろな役割を持たせようとしたことです。不幸なことにというか、日本の場合戸籍や住民票や印鑑証明なるものがいまだに重要で、それらを管理する住民基本台帳などがあり、マイナンバーカード以前は「住基カード」や「印鑑登録証」といったものが自治体から発行されていてこれらの書類の発行に使われていたわけです。日本の個人情報がそういった戸籍・住居ベースのものであるという制約が、マイナンバー「カード」によってこれら住基カードや印鑑登録証の後継を担わせることになったのだと思いますが、本来必要だったのは従来のカードの情報を付与されたマイナンバーに紐づけさせるという作業であって、マイナンバーカードにすべて置き換える必要があったのかどうかは疑問です。健康保険証などはその最たるもので、医療行為とマイナンバーとはあまり関係なさそうに思いますし、そもそも医療機関に出向いて診察を受ける際にカードを持ち歩く必要がでてくるので、紛失の危険も高まります。究極の個人ID番号に加えしかもご丁寧に住所や生年月日などまで記入されたカードを持ち歩かせるというセンスの悪さだけでも、考えたやつは極刑に値すると思います。
実際に、住民データとの紐づけに失敗しているケースや、保険証との紐付けに失敗しているケースが続発しているようです。関係者一同、荒川の河川敷で腹を切るぐらいのレベルのずさんさ。さらに問題は、こういうリスクが残っているにもかかわらず、カードの取得促進のために巨額の国費を使ったキャンペーン(マイナポイント)を実施したことです。ワタクシは一応カードを取得しましたが、当時健康保険証を廃止して組み込むという話はありませんでした。まあせいぜい近所のコンビニで証明書類を取得するぐらいでは紛失もしないだろうと甘く見ていました。(マイナポイントはしっかりいただきましたが)。ですから、こうした問題が出てきてしまうと、国民に大きな動揺を与えてしまいます。政府はこれはシステムの問題ではなく入力などの人為的ミス、という立場のようですが、そもそも、番号自体は国民に割り振られているわけですから、事務ミスが起こったきっかけはマイナポイントの付与を餌に一気にカードを作らせようとした政策のミスです。そしてIDが間違っている、というまさに制度の根幹にかかわる問題が発生してしまい、すでに大きな不安を与えてしまっているという点で制度設計としては取り返しのつかないミスといえます。
ワタクシ自身は個人番号制度には賛成です。国家が国民や住民の一人一人について、特に金銭面においてしっかり管理することは、税の公平性、社会保障の公平性やそれらの制度設計の変更などに大きなメリットがあると思います。反対する人は「やましいところ」がある人ではないか、としか思っていません。しかし、番号制度とカードは全く次元の異なる話なのです。どこでどう議論が間違ったのかわかりませんが、いまでも、そもそもこんな大そうで立派なマイナンバー「カード」は必要なかったと思います。カードについては即刻無効として、制度設計をやり直すべきだと思っています。
この記事へのコメント
マイナンバーの件全く同感です。私は日本のマイナンバーにあたるものを日本・アメリカ・イギリス・オランダで取得していますが、これをカードにして持ち歩くという恐ろしいことは日本以外では行われていません。(寧ろ、”大切な情報なので人に見られない場所に保管してください”ということになっています)今はイギリスにすんでおり、税金番号:Unique Tax Reference・社会福祉番号:National Insurance・健康保険番号:National Health Serviceに別かれていますが地方自治体の住民税も含めてWebsiteがGov.UKという共通のドメイン・プラットフォーム上で運営されており加入の申請はそれぞれ別に行ないますが横の連携は確りしています。今回日本では”データ紐づけの失敗”ということで総点検を行うそうですが、企業のSOX/JSOX監査ではデータ移転にあたりシステム上の裏付け無しにコピペしたり手書きの作業が残るとDeficiencyとしてお灸をすえられる(二重三重のsafe guardや改善策が求められる)のではないかと思います。私はデジタル庁はマイナポイントの付与でお金をばら撒くのではなく、地道にGov.JPの省庁・自治体横断のプラットフォームの作成に注力して”紐づけの失敗”起きない構造にすべきだったと思います。もちろん私も個人番号制度には大賛成です。