米国の状況を憂う

正直、すごく悲しいです。ワタクシにとってはわずか数年しかいなかった場所であり、NYの割と豊かな地域に住んでいたというだけですので、アメリカを語るには全く不十分な経験しかないのですが、それでも、同時多発テロの後のアメリカはみんなが一つにまとまり、協力し合い、親切で、希望に満ちていた。同時多発テロそのものにも諸説はあるとはいえ、ともあれ、アメリカの人々が非常にきちんとしていた時代にそこにいられた自分としては今の状況を見るにつけて、万感迫るものがあります。

今回のきっかけは、割とよくある黒人への警察による虐待でした。これまでも同様の事件は繰り返されていて、その都度大きな騒ぎにはなっています。ただ、今回の事件はおそらく異質な展開をたどっています。

異質さの一つの要因は、大統領が異質な人であるということです。非常に根の深いプロテストに対し、それほどない脳みそを使おうともしないで、いきなり武力弾圧を示唆している。おそらく、本人自身がいろいろな意味で「差別的」な根っこを抱えているのではないかというのがこれまでの女性やマイノリティに対する発言から推認されるところですが、今回もそういう背景が図らずも出てしまっているのではないかと思います。もしそうだとしたらやはりアメリカは適切ではない人物を大統領に選んでしまった感はつよいですね。

異質さのもう一つの要因は、今回の暴動がコロナ騒ぎの延長上にあるということです。それはさらに三つの大きなポイントがあると思います。

一つ目のポイントは、コロナ騒ぎで全米各地で行動が制限されたことで、全体に人々の不満がたまっていた。最近の日本でも、ようやく自粛が解除され昨日あたりから通勤電車の人が一気に増えた感じですが、やはり中には精神的に非常にギスギスしたままで通勤に戻っている人がいて、朝の電車の中で早速乗客同士のトラブル(押したとか押さないとか)を目撃。まあ行動が制限されて人との接触を抑制される状況が長く続くとどうしても距離感がとりづらくなるので、その延長上に暴力とか暴動とかが出てきているのではないかと。

二つ目のポイントは、中国が今回の問題の中心だったこと。米中がもともと強烈な覇権争いをやっている中でコロナウイルス騒ぎが起こった。陰謀論として中国が欧米人がかかりやすく死にやすいウイルスを意図的に開発してばらまいたという説についてはコメントを避けますが、アメリカもよせばいいのに、この件で中国との敵対関係をさらに深めています。米国にいる日本人の方のツイッターを見ても自分たちも銃で武装しなければならないとか、これまで銃社会を批判していたけれどごめんなさいやっぱり自分も銃を持ちますとか、そういうコメントがあふれるぐらい、敵対的な状況を生み出している。アメリカの本質的な分断につながりかねない状況です。

三つ目の異質さは、おそらくこれが最も大きく深刻だと思うのですが、過去に例のないぐらい大きく損なわれた雇用の問題と結びついていることです。コロナ騒ぎで一瞬のうちに新規失業保険申請件数が2000万件とか、失業率が二けたとかそういう状況に追い込まれたわけです。しかも、実際はネット社会が進行しリアルな職がどんどん縮減され、元に戻らないと思われる中、皆さんこれからどうやって生きていこうか路頭に迷いかけているところに、恰好の「暴れるネタ」が提供されたのです。実際黒人差別的なきっかけで起きた暴動なのに、略奪の主体は白人だったりする映像が流されている。つまり、米国流の筵旗の一揆がおきているというのがむしろ正確なのでは?と思っています。一部では背後に中国があおっているとの説もあります。その真偽はともかくとして、香港問題で米国と正面から対立しようとしている中国にとって、この状況で米国が身動き取れなくなることは、戦術的には非常にありがたい状況でしょう。

非常に残念なことに、トランプ氏も冷静さを完全に失っており、いきなり州兵の出動やら首都への軍の出動という話になっている。暴動が治まらないと銃撃するとまで言っている。こういうことは光州事件や天安門事件など、アメリカが下に見ている国で起きている話でしたが、こういう指導者を抱いてしまえば、アメリカという国でも容易に起こりうるという現実を目の当たりにすることになりそうです。

まあ、可能性は低いとはいえ、先ほど書いたように今回の暴動が黒人という枠を超えた国家の分断を体現したものとなるリスクについては為政者は十分に意識しておかねばならないのですが、トランプ大統領やその取り巻きたちにその辺の明確な認識はあるでしょうか?今の状況はせいぜい各地で「一揆」が散発している状況ですが、これが民族対立や階層対立を巻き込んでくれば中国の歴史で起こっているような大規模な内乱につながりかねません。世界の秩序の前提が大きく狂って行かないことを祈るのみです。

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