COLONA債あるいはCovid債
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58939560R10C20A5MM8000/?n_cid=NMAIL007_20200511_Y
ちょっとマーケットで話題になったようです。三菱UFJFGが発行するこの債券は、今回のコロナ事象において資金調達に苦しむ中小企業などへの貸し出しにその調達資金を充てるということのようで、まあ一種のサステナブルボンドということになりそうです。
その思想や良しとしたいと思いますが、投資家サイドからみてやはり認識しておかねばならないポイントを3点ほど指摘しておきたいと思います。(なお、当該ボンドは海外投資家向けに外貨建てで出すようですが)。以前、サステナビリティボンドのところで挙げたエントリーとかなり重複しますが、あえてもう一度書いてみます。
(以前のエントリー:https://ensaigaisai.seesaa.net/article/202002article_1.html)
第一点目は、ノンリコースではないため、そもそもなぜわざわざコロナ債と銘打って出す理由があるのか、ということです。身もふたもない言い方をすれば、発行体側、そして購入側の、ESGアピールのためのボンドであるということ。投資家サイドからみれば、ほかのボンドもこのボンドも返済原資は全く同じ財布であり、優劣関係もなく、普通の債券を買うのと何ら変わりがないということです。発行体である銀行は、別にこんな債券発行しなくても、コロナ騒ぎでお困りの中小企業に融資することに何の制限もないはずです。この債券を出すことによって低クレジットの相手先に融資ができるようになる、そういう仕組みが金融庁なりバーゼルなりで担保されているなら別ですが、そうでもなさそうです。
第二点目は、1点目と関連しますが、リターンの問題です。本来グリーンボンドにせよサステナビリティボンドにせよ、一定の「お墨付き」を得るためには一定の基準を満たすことと、その資金使途について投資家としてもおそらくきちんと管理すること、そのために債券の発行体なり管理者がそうしたデータを収集して提供することが必要と思われます。となると普通の一般の債券より双方にとって本来「手間がかかる=コストがかかる」商品となるわけで、トータルで見た場合のリターンに対する制約要因になる可能性があります。
実はこの点で、先日見ていたPRI主催のビデオパネルで、オランダの運用会社の人も同様なことをおっしゃっていました。いわゆる”Covid“債券というものへの投資について、その方は、リターンを犠牲にすることはできないというようなことをおっしゃっています。
https://www.brighttalk.com/webcast/17701/407131 (48分ごろ)
厳格な意味での受託者責任の視点では、同様のリターンを持つ比較可能な同一発行体の債券に比べて確実にコスト増となるような投資商品への投資が許されるかどうかはやや疑問となります。
第三点目は、この債券がノンリコースでないことにより、発行体はこの発行により、シニアの負債を増やしつつ資金繰りにあえぐ一種のサブプライムの資産を増やすことになります。まあ金額的にはわずかでしょうから、それほど目くじら立てることもないとは思いますし、本来的にそれが銀行の仕事なわけですが、わずかとはいえ発行体の全体の信用力にマイナスの影響を与える金融行動をあえて宣言して発行するわけですから、厳密に言えばコベナンツなどの考慮が必要になるかもしれませんし、あまりやりすぎるとその行動自体がスプレッド拡大要因となる可能性は皆無ではないということです。
まあ、実際はMUFJさんぐらいの大店がやるから、実体としてほぼ問題となることはありますまい。ましてやこういう非常時ですから、逆に信用システムの根幹を担っているともおもえる大手銀行グループについては、暗黙の政府のサポートすら想定できるのであって、信用力の点を云々する余地はまずないと思います。ただ、実際最も気になるのは、以前のエントリーでも書いた通り、むしろ投資家サイドの「緩み」のほうです。こういうコロナ債なり“Covid債”なりに投資する投資家の意図としては、クレジットリスクが大手金融機関のものでありながら、実際の資金が苦しんでいる人々に流れる、というところに「社会貢献的な」、ESGでいえばSの面での取り組みをアピールできるということで、要するに安全な彼岸から、対岸の苦しんでいる人に手を差し伸べる格好の手段ということです。
でもそれは、単に見せ方の問題にすぎません。投資家の資金はあくまで発行体のところに一旦流れ、そのあと、もともとその発行体の本業としての融資に回るだけで、今回たまたまそれの使途を資金繰りに苦しむ企業というところに限定しているだけです。しかし、お分かりの通り、こんな債券に仕立てなくても、金融機関はそういう企業に対しての資金繰り支援をやることになっています。金融機関にお金がないなら普通の一般債券を発行してその資金をだまって資金繰りに苦しむ企業に出してやればいいだけです。要するにこういう案件って、別に否定はしないけれど、かなり「見せ方の問題」といえなくはないし、きつい言い方をすれば「グリーンウォッシュ」ならぬ「ソシャルウォッシュ」的な香りもしてしまいます。
仮に当該金融機関の株主であれば、同様にESGという視点も含めた株主利益の観点から株主総会などで質問してもいいくらいの案件かなとは思いますね。
なお、コロナ時代のESGそのもの全般についてもなかなか難しい考慮を迫られてくると思います。特に、業種的に厳しい企業にとって、会社の存続のために従業員の雇用や労働条件に手をつけたり、これまで金をかけてきた環境問題への取り組みを後退させたり、そういうことが起こりかねません。そういう企業にESGの視点をとりこんで評価したうえで投資していた投資家は、もちろんESG以外の財務要因で投資対象外とする可能性は強いと思いますが、この状況をESGの視点でどのように評価するのか、考え方を整理しておく必要があるでしょう。
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