為替市場の混乱に思う
どう考えても日本のマーケットが混乱しているときで参加者もまともに出社とかできない状況ですから、不要不急の取引などは避けるべきことは当然なのですが、にもかかわらず意図的にこの混乱を利用して儲けようとしている人々が現実にいるということはとても悲しいことですね。9.11の時はワタクシたちも取引を控えましたし、市場関係者としては必要以上に相場をかく乱することは避けるべきだと思うのですが。
http://markethack.net/archives/51707158.html
そのような状況で、為替介入が入るのはまあある意味当然ということで、とりあえず市場はまた落ち着きを見せているようです。
冷静に考えれば、今回の様々な事件は中期的な円安材料だらけです。上記のリンクにある記事の中の会話では「円高」になっていましたが、ワタクシはその結びつきが最後まで理解できませんでした。何人かの市場関係者と話したところでは、やはり「円高」を見る人は阪神淡路大震災の後数カ月で円が2割ほど上昇して史上最高値(当時)をつけたことの印象が投機筋のなかでは強い、という認識です。しかしながら、当時は日米貿易摩擦の問題があり、しかもあのクリントン(どういう意味かは想像に任せます)で為替で調整という米サイドの強い意思があったように思います。しかし、結果として、これは90年から10年間くらいのチャートが示す通り、震災直後の6カ月程度だけが谷間に空いた落とし穴みたいな形になっていて、その落とし穴の部分を除けばドル円相場は阪神淡路大震災のところが「底値」であったことが理解できます。
資本の流れも、うわさされるような日本の保険会社のレパトリが少なくとも為替に影響を与える可能性はほぼないといえます。第一に「資金」という意味では、国内の債券を取り崩すほうが圧倒的に楽であり金額などの点でも有効です。外貨建て資産をこの時期に取り崩すのはあまり意味がない。第二に、今回の事件の震源は日本なのだから市場として見た場合の不確実性は日本の資産が最も大きいことがあげられます。これは債券にもいえることです。むしろ外貨建て資産はリスク分散という観点や価値の温存という観点からも売却の順位としては劣後することになるでしょう。大体において、そもそも今の段階で保険金支払いのための流動資金は十分たりているようです。
さらにいえば、95年の円高時は実は日本の生保などのヘッジ率はそれほど高くありませんでした。それゆえ、100円を割れてからは想定外ということでヘッジの売りが加速し、相場を急速に押し下げた面があると思います。当時もやはり1月以降ということで3月決算が間近で、多少あわてたところはあったと思います。しかしながら今はそれほどあわてて外貨を売らなくても決算上は全くと言っていいほど問題がない水準です。今年度は内外金利差が短期のところで小さく、ヘッジコストは極めて安く、ヘッジが進んでいます。しかも金利はまだ低い水準であり、外貨ポートの損益はそれほど悪くありません。その意味でも「提灯がつく」可能性は低いといえます。
また実質実効ベースでも円は「割安」とまで言える水準ではなく、ニュートラルに近いと思います(もちろん今回の事件でファンダメンタルズが根本的に変化するのはこれからですが)。だから円の割安が調整されるべきというレベルでもありません。
対外収支の面では、日本の生産力が相当落ち、原子力発電もかなり落ち込む中で、エネルギーの対外依存が進みます。火力発電所の建設が急務になり、石炭や石油の輸入が増えるでしょう。一般の物資やあるいは食糧も対外依存が進む可能性があり、貿易黒字が大きく減り、もしかしたら赤字基調が続くかもしれません。もちろん経常収支の黒字に占める所得収支の割合は高まっているのですが全体としての黒字は減るはずです。
しかも戦争にも似たこれほどの被害の復興のため、巨額の財政出動が必要となります。まださまざまな説がありますが10兆円を超える金額を早い段階でねん出して支出しなければならないだろうと思います。一瞬にせよ景気にかなりのマイナス影響が出る中では国債の増発は避けられないでしょう。一方で日銀の利上げというのは当面視野にすら入らなくなったということでしょう。金利が低く、財政バランスのさらに悪い国となる日本についていえば、通貨として見ればやはり「売り」となりやすい。さらに、今回の地震で需給ギャップにどのような影響が出るかが興味深いです。これまでの大きな需給ギャップがデフレ要因であり、デフレ通貨として実質価値が上昇する対象として円の名目価値が上昇してきた面もあったはずですが、それがもしかしたら解消されるのかもしれません。
しかも阪神の時と根本的に違うファクターは「原発事故」です。これは外国のメディアや在日外国人の反応を見てもわかる通り外国から見てかなり大きなショックです。外資系金融機関の中には東京にオフィスがあるだけでも日本撤退を考えるところが出てきているうようです。海外のマネージャーで日本の証券市場に投資している人々にとっては、当然「アンダーウェイト」となる可能性が高く、また物理的にも撤退に伴う円資産売りみたいなものが出やすいでしょう。
実際外国系金融機関の撤退の兆しは金利のところに表れ始めているようです。ある証券会社には、通常であればほぼ無リスクでアンワインドの必要もない技術的なベーシス裁定取引の解消が持ち込まれたようです。また円の10年超長期のスワップがネガティブベーシス(スワップ金利のほうが国債金利より低い)状況となっており、これは以前リーマンショック前にも書きましたが、外国金融機関で日本でショーバイしていたところがお店を閉じる前に出る現象といえます。
このなかであえて円高要素があるとすれば、広い意味での円キャリー取引をしていた人々の円の買い戻し(このなかにはFXも含まれるでしょうが)にくわえ、水準感としてもまだ現状が極端な「円高」とは言い難い水準であることですが、前者についてはなかなか実体はよくわかりませんし、後者についてはファンダメンタルズに大きな影響を与えたイベントがある中で、過去のデータではかることはあまり意味がないと思います。
色々書きましたが、今回の事件では、総合的には円安材料が多いように思います。今回一瞬史上最高値を付けたのは、時間的に見てFX証拠金取引のロスカットが多かったのではないかと思うのですが、どうでしょうか?やはりこのFXという仕組みはこういう流動性のない中では格好の投機筋の餌食となりやすいと思います。為替取引には「インサイダー規制」がないことをもう一度思い起こしていただきたい。FX業者そのものではなくても、そこから情報が漏れた先の投機スジから狙い撃ちされることは、こういう流動性の落ちている市場では起こりやすいのかもしれません。
今回は投機的動きということと、決算期前ということで相場安定のために協調介入が入りました。もちろんそれはそれで大変納得感のあるものですが、個人的には、上記のような理由から、放っておいてもかなりの円安に数年以内になるのではないか、と思います。というか、これだけ大規模に国内的な物資の不足が予測され場合によっては貿易赤字なども予想される中で、本当に円高がマイナスなのかどうかは慎重な検討を要する事項となってきていると思います。とりわけエネルギー不足、食料不足といった状況に対応するために円の購買力が高いことはそれほど悪いことではない。逆に日本の先端製品は品薄で海外で引っ張りだこになる可能性はあります。今後も事態は流動的であるとはいえ、今回の事件で少なくとも数年単位では状況は大きく変わったのだと思います。
いずれにしても、ワタクシたちにできるのは、日常業務をきちんと継続し、社会の動きが停滞しないようにすることだと思います。浮足立たず、自分の仕事をきちんとこなす。そして被災された方々の窮状に思いを寄せて寄付をし、電気を節約し、買いだめを控え、かといって過度に生活を抑制することなく暮らしていきたいと思います。
http://markethack.net/archives/51707158.html
そのような状況で、為替介入が入るのはまあある意味当然ということで、とりあえず市場はまた落ち着きを見せているようです。
冷静に考えれば、今回の様々な事件は中期的な円安材料だらけです。上記のリンクにある記事の中の会話では「円高」になっていましたが、ワタクシはその結びつきが最後まで理解できませんでした。何人かの市場関係者と話したところでは、やはり「円高」を見る人は阪神淡路大震災の後数カ月で円が2割ほど上昇して史上最高値(当時)をつけたことの印象が投機筋のなかでは強い、という認識です。しかしながら、当時は日米貿易摩擦の問題があり、しかもあのクリントン(どういう意味かは想像に任せます)で為替で調整という米サイドの強い意思があったように思います。しかし、結果として、これは90年から10年間くらいのチャートが示す通り、震災直後の6カ月程度だけが谷間に空いた落とし穴みたいな形になっていて、その落とし穴の部分を除けばドル円相場は阪神淡路大震災のところが「底値」であったことが理解できます。
資本の流れも、うわさされるような日本の保険会社のレパトリが少なくとも為替に影響を与える可能性はほぼないといえます。第一に「資金」という意味では、国内の債券を取り崩すほうが圧倒的に楽であり金額などの点でも有効です。外貨建て資産をこの時期に取り崩すのはあまり意味がない。第二に、今回の事件の震源は日本なのだから市場として見た場合の不確実性は日本の資産が最も大きいことがあげられます。これは債券にもいえることです。むしろ外貨建て資産はリスク分散という観点や価値の温存という観点からも売却の順位としては劣後することになるでしょう。大体において、そもそも今の段階で保険金支払いのための流動資金は十分たりているようです。
さらにいえば、95年の円高時は実は日本の生保などのヘッジ率はそれほど高くありませんでした。それゆえ、100円を割れてからは想定外ということでヘッジの売りが加速し、相場を急速に押し下げた面があると思います。当時もやはり1月以降ということで3月決算が間近で、多少あわてたところはあったと思います。しかしながら今はそれほどあわてて外貨を売らなくても決算上は全くと言っていいほど問題がない水準です。今年度は内外金利差が短期のところで小さく、ヘッジコストは極めて安く、ヘッジが進んでいます。しかも金利はまだ低い水準であり、外貨ポートの損益はそれほど悪くありません。その意味でも「提灯がつく」可能性は低いといえます。
また実質実効ベースでも円は「割安」とまで言える水準ではなく、ニュートラルに近いと思います(もちろん今回の事件でファンダメンタルズが根本的に変化するのはこれからですが)。だから円の割安が調整されるべきというレベルでもありません。
対外収支の面では、日本の生産力が相当落ち、原子力発電もかなり落ち込む中で、エネルギーの対外依存が進みます。火力発電所の建設が急務になり、石炭や石油の輸入が増えるでしょう。一般の物資やあるいは食糧も対外依存が進む可能性があり、貿易黒字が大きく減り、もしかしたら赤字基調が続くかもしれません。もちろん経常収支の黒字に占める所得収支の割合は高まっているのですが全体としての黒字は減るはずです。
しかも戦争にも似たこれほどの被害の復興のため、巨額の財政出動が必要となります。まださまざまな説がありますが10兆円を超える金額を早い段階でねん出して支出しなければならないだろうと思います。一瞬にせよ景気にかなりのマイナス影響が出る中では国債の増発は避けられないでしょう。一方で日銀の利上げというのは当面視野にすら入らなくなったということでしょう。金利が低く、財政バランスのさらに悪い国となる日本についていえば、通貨として見ればやはり「売り」となりやすい。さらに、今回の地震で需給ギャップにどのような影響が出るかが興味深いです。これまでの大きな需給ギャップがデフレ要因であり、デフレ通貨として実質価値が上昇する対象として円の名目価値が上昇してきた面もあったはずですが、それがもしかしたら解消されるのかもしれません。
しかも阪神の時と根本的に違うファクターは「原発事故」です。これは外国のメディアや在日外国人の反応を見てもわかる通り外国から見てかなり大きなショックです。外資系金融機関の中には東京にオフィスがあるだけでも日本撤退を考えるところが出てきているうようです。海外のマネージャーで日本の証券市場に投資している人々にとっては、当然「アンダーウェイト」となる可能性が高く、また物理的にも撤退に伴う円資産売りみたいなものが出やすいでしょう。
実際外国系金融機関の撤退の兆しは金利のところに表れ始めているようです。ある証券会社には、通常であればほぼ無リスクでアンワインドの必要もない技術的なベーシス裁定取引の解消が持ち込まれたようです。また円の10年超長期のスワップがネガティブベーシス(スワップ金利のほうが国債金利より低い)状況となっており、これは以前リーマンショック前にも書きましたが、外国金融機関で日本でショーバイしていたところがお店を閉じる前に出る現象といえます。
このなかであえて円高要素があるとすれば、広い意味での円キャリー取引をしていた人々の円の買い戻し(このなかにはFXも含まれるでしょうが)にくわえ、水準感としてもまだ現状が極端な「円高」とは言い難い水準であることですが、前者についてはなかなか実体はよくわかりませんし、後者についてはファンダメンタルズに大きな影響を与えたイベントがある中で、過去のデータではかることはあまり意味がないと思います。
色々書きましたが、今回の事件では、総合的には円安材料が多いように思います。今回一瞬史上最高値を付けたのは、時間的に見てFX証拠金取引のロスカットが多かったのではないかと思うのですが、どうでしょうか?やはりこのFXという仕組みはこういう流動性のない中では格好の投機筋の餌食となりやすいと思います。為替取引には「インサイダー規制」がないことをもう一度思い起こしていただきたい。FX業者そのものではなくても、そこから情報が漏れた先の投機スジから狙い撃ちされることは、こういう流動性の落ちている市場では起こりやすいのかもしれません。
今回は投機的動きということと、決算期前ということで相場安定のために協調介入が入りました。もちろんそれはそれで大変納得感のあるものですが、個人的には、上記のような理由から、放っておいてもかなりの円安に数年以内になるのではないか、と思います。というか、これだけ大規模に国内的な物資の不足が予測され場合によっては貿易赤字なども予想される中で、本当に円高がマイナスなのかどうかは慎重な検討を要する事項となってきていると思います。とりわけエネルギー不足、食料不足といった状況に対応するために円の購買力が高いことはそれほど悪いことではない。逆に日本の先端製品は品薄で海外で引っ張りだこになる可能性はあります。今後も事態は流動的であるとはいえ、今回の事件で少なくとも数年単位では状況は大きく変わったのだと思います。
いずれにしても、ワタクシたちにできるのは、日常業務をきちんと継続し、社会の動きが停滞しないようにすることだと思います。浮足立たず、自分の仕事をきちんとこなす。そして被災された方々の窮状に思いを寄せて寄付をし、電気を節約し、買いだめを控え、かといって過度に生活を抑制することなく暮らしていきたいと思います。
この記事へのコメント
全くもって同感です。
また、厭債さんのおっしゃるような、インサイダー取引の懸念もあると思いますが、クリック365が日々公表しているFXの取引量や残高から、「ミセスワタナベ」の手口が、かなり見えてしまっているのも問題ではないかと思います。
賢明な個人投資家は、もしFXをやるならば、通常の外貨預金と同様にFXの倍率は1で取引し、為替のコストやスワップ(利息)面での優位性を享受するようにすべきでしょう。でも、皆がこのようにしたら、取引の回転率も落ちて、FX業者はやっていけなくなるんでしょうねぇ。
長文失礼しました。