ルーブル売りはユーロ売りに通ず

最近ロシアルーブルの下落が激しく、管理相場(取引バンド)制度の下で対ドルでの取引バンドをどんどん切り下げ(させられ)ています。いよいよ通貨防衛のための金利引き上げにも踏み切ったようで、かつてのどこぞの弱小エマージング国と変わらない状況です。

もともとここ数年のロシアは、投資機会を求めた外資の流入と原油価格高騰でめちゃめちゃ潤っていたことはご存知のとおりです。1998年に事実上デフォルトしたこの国が、あっという間に負債を返し、直近でも5000億ドルもの外貨準備を持つ債権国に転じてしまったのですから、まあ自信を持ってしまうのもやむをえない。ただ、ワタクシなどは、(ロシアの人は好きですけれど、とくに一緒に飲むときは)ロシアという国への投資はまあ当分控えるべきだと思っていました。

ロシアは投資という観点からは多くの問題を抱えています。

まず政治的な不透明感です。いくら体裁を整えても、ロシアが事実上元KGBのプーチン独裁であることは明白です。しかも恐怖政治で国を統治し、一方で貧富の差を拡大しつつある。長い目で見ればともかく、当面は国が不安定になるのは確実で、相当な政治リスクプレミアムがないとむずかしい。

次に、経済自体が石油に依存しすぎていることです。結局のところ原油価格が下落したことがこういう風に為替等が暴落してしまう原因になったわけですが、一次産品、しかも単一の産品に極端に依存してしまうと、外的ショックに極めて弱い。その意味でもリスクプレミアムが要求されるでしょう。

さらに、一番大きな懸念は、国民の健康問題です。これは冗談ではなく、ロシア人男性の平均寿命はいまだに60歳に達しない。しかもわずかに低下している。酒を飲みすぎるからだといわれます。さらに自殺率も堂々の世界第三位(ちなみに一位二位はそれぞれリトアニアとベラルーシですから、まあ本当に「自殺」かどうかは疑ってかかる必要がありそうですが)。一方で女性が子を産む平均人数は1.17人ということですから、これは日本どころの騒ぎではない深刻な状況なのです。
で、仮にロシアの為政者が国の将来を真剣に考えるならどういう行動をとるか?飲酒を止めさせる?無理でしょう。寒いですからね。女性の出生促進?むりでしょう。かつてのような共産主義を前面に出して育児を国が丸抱えするような仕組みならともかく、いまはそのようなことは無理だし、多分女性が一生懸命働くのは結構ロシアの伝統だったりするので、よけい子育てが難しい。

というわけで、日本なら移民を入れろみたいな話になるのですが、ロシアでそれだけ人手不足かというとそうでもない。逆に、海外への拡大政策に走りそうな予感がします。この危険性はかなり強いと思います。つまり、ロシアは石油で儲けたお金で将来のための領土拡大に走りそうな予感があったから、(アメリカ側からの挑発があったといわれる)グルジア紛争がおき、それを境にルーブルの逆回転が始まったと見ることも出来ます。なにせ8月まではルーブルは「切り上げ」を続けていたのですから。ま、これは根拠なき推測の域を出ませんが。

ところで、ロシア通貨ルーブルの相場がバスケット制をとっていることはご存知かと思います。ワタクシも直近まで確認したわけではありませんが、銀行の人に聞いたところでは概ねドル45%、ユーロ44%、ポンド10%、円+スイスフラン1%という感じだそうです。過去においてはもっとドルの比率が高かったのですが、まあ政治的な思惑や取引関係を反映してドルの比率が落ち、ユーロやポンドなどの比率が上がってきたようです。

ここで先物市場で対ドルでルーブルが売られる(基本的には為替投機は対ドル)と、当局が介入して対ドルレートをバンドの範囲に治めようとするわけですが、自然に介入すればルーブルを買ってドルを売ることになりますがルーブルのバスケットという性格上、外貨準備を使ってドルを1単位売ると、外貨準備の構成上ドルだけが売りすぎになってしまう。だから、バスケットを一定に保つには、同時にその一部金額についてユーロ売りドル買いをしなければならない、という風に理解しています。だからルーブル安で介入が入るとなぜかユーロが売られるのだと理解しています。(違ってたらごめん。詳しい人教えてください)。

まあ他にも様々な理由はあるのでしょうけれど、為替が久しぶりに地政学リスクをいっぱいにはらんだ戦場になりつつありますね。

この記事へのコメント

tatsu
2009年02月03日 09:14
いつも楽しく拝見しています。
私も為替はよく分からないのですが、ドル売り介入の結果、今後外貨準備プールの米ドルの比率が45%より更にすくない比率にまで下がるということは、あるのでしょうか?
kazzt
2009年02月05日 02:05
私はロシアをプラス評価しています。プーチンの独裁的な色彩はどうしても拭うことは出来ませんが、システムとしては民主主義国家で資本主義です。(共産主義の中国とはシステムが完全に違います。)オバマと同じくプーチンは国民に人気が有るんですよ。だから支持率が高い。支持率が高いから色んなことが出来るのは民主主義の良いところですよね。プーチンもそれです。国民の人気も無いのに無茶なことを繰り返したブッシュ(史上最低の大統領)に比べれば、ずっとましな民主主義国家ですよ。
そのブッシュにラブミーテンダーを歌った『カルトオブ靖国』という(ゴミ ネオコンの下請けみたいな変なの)に比べることすら恥ずかしく成りますよ。
kazzt
2009年02月05日 02:06
日本にとって最も実利が大きい国はロシアだと思います。資源が豊富でITに強い。この日本が苦手な重要な二つが日本に低価格で提供される可能性が十分にある。日本が得意とする技術(車家電)は駄目で頑張って高く買ってくれるであろう可能性もあります。領土の歴史的にロシアの行動は正しくは無いが、仲良くすれば、北方領土を返してくれるだろうというプレミアムも存在します。(これは水産業にも大きくプラスされる要素はでかい)
 これほどまでに現在の日本に実利を与えてくれる国は無いと思いますよ。中国とも仲良くするべきではあるが、インドとの関係性を良好にするだけで、中国と対置するのは危険だ。ロシアとインド、南北から挟み込んだ方がより多くの手を打つことが出来安心だと思いますね。
kazzt
2009年02月05日 21:46
あ、ちなみにこれは政治で経済認識では有りませんでした。プーチン=メドベージェフの政治は酷いものだとは思いません。社会主義からいきなり民主主義に変わったんだから、そうとうに大変だと思います。
ただ、投資対象としてはとても不安定という認識は正しいと思います。
2009年02月09日 08:30
kazztさんどうもです。戦争を経験した日本人にとって、ロシアは結構心理的に超えがたい壁がありそうですが、次の世代には何とかなるでしょうか?

tatsuさん、コメントありがとうございます。これまで米ドルの比率を落としてきたのは、交易上のバランスは当然としても、政治的な思惑もあったように思えます。ユーロの実力しだい、というところでしょうか。まさか自分のところが準備通貨になるとはさすがに思ってはいないでしょうけれど。
kazzt
2009年02月16日 00:03
ロシア株上がってしまいましたね。
世界経済が不安定なので、上値は追えないと思いますが、底力は有ると考えている人は多いのだと思います。
2009年02月16日 05:55
kazztさん、どうもです。相場はまあ上がったり下がったりです。感情とは別にこういう国とも付き合わなければならないというのは事実です。
shinsaku2009
2009年10月08日 21:26
09年10月のヘッドライン:市場筋によると、中銀はルーブルの急激な上昇抑制のために、外貨買い介入を実施しているもよう。

同じ年の出来事なのに、こうも立場が変わってしまうんですかね。石油決済通貨の話といい、ドルの将来どうなるんでしょう?
2009年10月14日 06:23
shinsaku2009さんコメントありがとうございます。通貨投機というのは結構起こる時は激しいものですが、やはりドル低金利の時間軸が浸透してしまったことが大きいかもしれませんね。口では強いドル政策と言いまた共和党はドル安はけしからんと言いつつも、本音のところでドル安は仕方ないというムードが醸成されているのではないかと思います。ただ、たぶんですが政治的握りで中国元がピクリとも対ドルレートを動かしていないので、アジアをはじめとする周りの国がドル安で大変ですから、今後多少の動きはあるかもしれないとは思います。

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