英国の状況が示唆するシナリオ
英国のRBS(ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)が極めて厳しい決算内容で、株価が一日で66%も下落し11ペンス台という殆ど無価値に近い状況になっています。3兆円を越える損失など貧乏人のワタクシには想像もつかない。もっとも株価の下落は、同時に政府保有優先株が普通株に転換されるという決定によって普通株の大規模な希薄化が生じたことも一因ですが、どっちにしても根っこは同じです。(但しRBSにとっては優先株配当に資金を回す必要がなくなり、資金やコスト負担は若干減るから本来はプラスのはず)。英国では週明けに早速新たな金融システム安定策を打ち出しました。(以下某銀行さんからいただいた情報より。)
・ 政府保証資金調達のissuance windowが当初の本年4月9日までから2009年末までとなる(但しEUの認可が条件)。保証対象の3分の1は2014年4月までロールオーバーでき、残りの3分の2は2012年4月までとなる。
・トリプルA格のABSに対して政府保証を付与する(不良債権化を防ぐ)
・SLS(特別流動性スキーム)についてBoEのディスカウントウィンドウを通じた貸出は1年まで延長される。
・事業債、CP、シ・ローン、一部のABSにくわえて政府保証債を含めたGBP50bnの直接資産買取スキームの創設
・資産/資本保護スキームの創設=Bad Bank構想
ところでBad Bank構想を利用するためには一定以上の自己資本比率を要求することになるため、RBSに関しては、政府保有のクーポン12%の優先株が普通株に転換されました。政府がより深く介入することが明らかになり持ち株比率が70%にまで高まり、すでに事実上の国有化といっていいでしょう。他の銀行についてもBad Bankスキームを利用するにあたって、自己資本比率を上昇させる必要性から、既存の優先株や優先証券の扱いが問題となりそうです。とりわけティア1に属する優先証券については、普通株扱いになる可能性があるため、RBSと同じく普通株の株価が暴落する可能性がありそうです。まあこれも織り込み済みということでしょうけれど。
この英国のプランが意味することは、以前個人預金保護の流れで多くの国が右に倣えしたように、多くの欧州諸国で同じことが起こるということです。端的に言えば多くの銀行でより政府の関与が強まり、政府出資の優先株が普通株になってダイリューションが生じ、多くの国で政府支出が大幅に増える。その結果単一通貨の基礎を成すべき共通の財政規律がないがしろになり、最悪の場合単一通貨を維持できなくなるのではないか?昨日のユーロの下落はまさにそれへの恐怖でしょう。
財政の問題はご存知のとおりユーロ圏でも各国マターです。単一通貨の枠組みを維持するために必要とされた財政規律をいじらないことにはどうしようもないところに来ているのですが、それをないがしろにしたとたん、ユーロは通貨としての信任を失うはずです。日本で地方議会が勝手に外国から借金しまくって地元の銀行を救うことを認めたらどういうことになるか?日本の場合は地方自治体は一応政府の監督下にあるのですが、ユーロの場合なにせそれぞれの国が「独立国」ですから、他の国は責任を負わない。
ECBは当然のことですが、各国マターに深いコミットは出来ず、「全体」の金利を決めるだけです。ECBが金利を下げ渋っているのは(そしてゼロにしないと明言しているのは)彼らには金利操作しか事実上仕事がないからともいえます。ゼロにしてしまったら当面失業するしかない。
というわけで、なかなかしびれる展開となってきております。
RBSは昨年ABNアムロを買収したのですが、いわばバブルのピークにラスベガスの郊外高級マンションを一棟買いしたようなもので、まあ時代の読みについてそういう判断で行われていたのでしょうから、仕方のないところといえます。他の金融機関についても似たり寄ったり。結局銀行という公的役割を担う機関に収益プレッシャーを与えてしまったことが、無理な経営につながったわけです。米国的にいえば今の事態はグラス・スティーガル法廃止(1999)の副産物でしょう。すでにいろんなところでコメントされているように、1933年に成立した同法は証券業務と銀行業務を基本的に分離すべしという法律で、実は元をただせば大恐慌時代の反省から出ているのですが、グラム・リーチ・ブライリー法によって99年に一部の重要な部分が廃止されました。金融持ち株会社が極めて広範な金融業務を営めるようになったうえ、国法銀行にも持ち株会社経由でなく子会社を通じて証券業務が営めるようになった。金融機関が収益拡大のために積極的に利用したのはいうまでもないでしょう。しかしコントロールが効かなくなり、反省を失ったとたんにこれですからね。結局のところシティはリテール証券業務から撤退せざるを得なくなりました。
さて、どこまでお金を出せば収まるのか?昨日WSJで見たゴールドマンの推計値では米国の証券化商品関連の損失額はRMBSだけで1.1兆ドル、全体で2.1兆ドルになるとのことです。住信基礎研の伊藤さんがニュースレターで書いておられましたように、現在認識されているのはその半分に過ぎない。すでに市場は相当の悪化を織り込んだ心理状況とはいえ、最大これまでと同じ規模のショックを受け入れなければならないということになります。銀行がこうした資産を償却しなければないとすると、一気に貸し出し余力が収縮するわけですから、経済の機能を維持するためにはどうしても政府がその分を資本注入するしかない。そして損を確定させるために(そして市場に損が拡大しないという認識を持たせるために)政府が金を出して不良資産を直接買い取るしかないだろうと思います。ポールソンが途中で迷走してしまったことが悔やまれますね。
この記事へのコメント
でちなみに最後GSのコメントは何の根拠ですかね。ここまで悪化させた本人が言う意味では説得力はあるにせよ、彼らがヘッジF化しているということであれば、ポジショントークにしか聞こえませんが。
。ECBとBOE、ECUとポンドって別でしたよね。いやーすっかり忘れてましたよ。で規制はどっちでしょうか。
ttoriさんどうもです。国に徴税権があるので普通は自国通貨建て格付けってそう簡単には落ちないのですが、今回は通貨が共通しているというのがミソで圏外離脱リスクというのが織り込まれているのだと思います。つまり長期的には事実上外貨建債務ではないかということで。
GSの件、たしかにポジショントークという見方もありそうですが、それほど余裕はないと思います。ちなみにイギリスはEUに入っているため、例えば政府保証などを使う過程で生じる補助金などに関してはEURO諸国と同等のルールに服するはずでいろいろ気を使わねばならないことも多いですが、金融や財政問題は完全に独立して動けるはずです。
EURO SELLERさん、どうもです。まさに為替で調整する機能を失ったところが結構悲劇の基だったりするわけですね。これはカレンシーボードとかペッグとかそういう通貨統合系の歴史に共通した問題のはずなんですが、人は時に現実を無視した理想に走ってしまうということでしょうか。