ファニメ・フレディマックへ公的資金投入決定
意外に早かったですね、というのが率直なところです。6日付のNYタイムズ(ネット版5日)には5日にファニメとフレディマック両社のCEOが政府とFRBに呼び出されて最後通告を言い渡されたというリーク記事が出ていましたから、その結果発表を急いだということでしょうか。先週あるいは先月から政治やマーケットでは結構荒っぽい動きが続いていましたが、ワタクシはGSE公的管理へ一気に踏み込んだのは地政学的状況も含めたマーケットの帰結ではなかったか、という仮説を立てています(全く検証していないので単なるドタ勘です。)
コモディティーの急激な調整で一部ヘッジファンドなどが危機に陥ったという話が多く聞かれるようになりました。おそらく、リスクを減らすという流れの中で、これまでドルから投資していたエマージング諸国への投資も本国帰り(リパトリエーション)を起こしていたとみられます。このなかでアジア通貨を中心にエマージング通貨が売られるというできごとが最近見られました。もしかしたらアジアを中心とする貿易黒字国が外貨準備の形で保有するGSE債券が、最近のアジア通貨下落の影響で売られるサインが出ていたのではないか?ということです。韓国などがGSE債を売ってドルを作っていたとかいう話も出ておりました。
しかし、今回危機になった国々は外貨準備によるGSE保有という観点ではおそらくそれほど大きなシェアを占めていないと思われます。アジアで言えばやはり太宗は中国と日本です。日本と中国で2007年6月ではおおむね海外保有GSE債券の46%程度を占めていて、もちろんトップはダントツで中国であります。しかし今年8月までのTICフローを見てもこれらの国々で大きなトレンドが出来ているわけではありません。
ところがサウジなどを含むアジアの石油輸出国という括り方にしたとき、ここ数ヶ月で顕著な動きが出ています。それはエージェンシー債の大量処分(ネット売り越し)です。
http://www.treas.gov/tic/asiaoils_46612.txt
金額ベースではたいした事ありませんが、これらの国々はそれまで基本的に相当額のネット買い越しだったのが今年の3月以降GSEを連続してかなり売りこしていることがわかります。もちろんその分国債は買っているという見方は出来ますが、いずれにしてもちょっと目立ちます。単にほかの直接投資系の見合いでリスクを減らしたという見方もできますが。
これらの国々はドルペッグ制度を採用しており、ドル下落によって自国への過剰な資本流入による経済のゆがみを生み出すことになるため、ドルの買い支えを行うわけですが、通常はそのために自国の通貨を供給せねばならず、インフレを招きます。だから本来はドルペッグなど止めたいはずなのですが、それをされると米国はドルの買い手(つまり米国証券の買い手)を失うことになるため、なんとか阻止したいと思うでしょう。いずれにしても今後多額の資金が要る米国にとって「お金(ドル)持ち」の国々からそれを還流してもらうことは一大使命です。そのためには彼らがエージェンシーを売らなくても済むような状況にしてあげる必要はあると思います。
同じことは日本や中国に対しても配慮すべきことですが。ましてや、ロシアが台頭しているなかで、米国以外でそれを押さえられる唯一の大国中国ですから、そこが大量に持っているGSE債券をリスクにさらすことなど出来るわけがないと思います。最近のグルジア問題での中国の存在感がこうした雰囲気を後押ししたかもしれません。
もう一つ気になるのは、欧州での出来事です。ご存知のとおり欧州中央銀行は先週の木曜日レポの適格担保のうちABSなど一部につきヘアカット(担保掛目による担保価値削減率)を大幅に引きあげ(2%→12%)ました。問題となっていたカバードボンドについては変更は無かったようですが、無担保銀行債や理論値評価の債券なども追加ヘアカット(5%)の対象となったようです。このおかげで為替が大きく動いた(つまり欧州の金融機関のリスクが高まる)といわれています。
考えてみれば「建前上」米国GSEの保証するMBSも単なるABSの一種であり、ECBと平仄を合わせるなら、FRBは今の短期貸し出しスキームなどでの担保掛け目について説明に窮する可能性があります。ECBがこの時期に担保の見直しを行った理由については諸説あるわけですが、いずれにしても中央銀行のバランスシートについての議論が高まっている中ですから、同じようなことをFRBに類推された場合、エージェンシー担保での貸し出しのところに目が行くのは自然ではないでしょうか?そのため、取り急ぎGSEについての政府の関与(暗黙ではなく事実としての保証)を明確にし、担保としての高い価値を保証しておく必要があったのかもしれません。そして7月の立法により幸いポールソンにはその権限がありました。(但し、ECBが担保掛目を変更したのは、あまりにも目に余るような借り手のやり方、つまり昨年8月の危機以来の状況で流動性のなくなった資産を証券化して(つまりABSやCDOなどにして)ECBに持ち込むケースが増えたためといわれていて、そもそも背景が違うだろうというのが通説ですので、念のため。)
そもそもGSEについてはここのところアドバイザーについた某投資銀行から資産内容についてあまりよからぬ報告が出されただの、フレディマックが予定していた55億ドルの増資はどうなった、とかやはり自力更生が難しい方向でのニュースが流れつつあったわけですから、ポールソンとしてはそれらのことが大きく取り上げられる前にいろんな意味で先手を打ったと考えるべきでしょう。いろんなコメントにあるように、共和民主両党の大統領候補が決まり、きちんと今後について話をする相手が二人に絞られたというのも時期的に重要だったのでしょう。いずれにしても、収益を目指す公開企業としての立場とアメリカンドリームを支える公益的企業としての役割の自己矛盾あるいは利益相反に耐え切れなくなった結果の幕引きということでしょう。
ここから先は愚痴です。
ポールソン長官、お願いだから週明け東京が開く直前に重大発表は止めてください(涙)。どうせやるならまず自分たちの市場で影響を試してから海外に送ってください。まえもそうでしたが、東京市場を実験場にするのはかつての●●実験とおなじ・・(以下自主規制)。
コモディティーの急激な調整で一部ヘッジファンドなどが危機に陥ったという話が多く聞かれるようになりました。おそらく、リスクを減らすという流れの中で、これまでドルから投資していたエマージング諸国への投資も本国帰り(リパトリエーション)を起こしていたとみられます。このなかでアジア通貨を中心にエマージング通貨が売られるというできごとが最近見られました。もしかしたらアジアを中心とする貿易黒字国が外貨準備の形で保有するGSE債券が、最近のアジア通貨下落の影響で売られるサインが出ていたのではないか?ということです。韓国などがGSE債を売ってドルを作っていたとかいう話も出ておりました。
しかし、今回危機になった国々は外貨準備によるGSE保有という観点ではおそらくそれほど大きなシェアを占めていないと思われます。アジアで言えばやはり太宗は中国と日本です。日本と中国で2007年6月ではおおむね海外保有GSE債券の46%程度を占めていて、もちろんトップはダントツで中国であります。しかし今年8月までのTICフローを見てもこれらの国々で大きなトレンドが出来ているわけではありません。
ところがサウジなどを含むアジアの石油輸出国という括り方にしたとき、ここ数ヶ月で顕著な動きが出ています。それはエージェンシー債の大量処分(ネット売り越し)です。
http://www.treas.gov/tic/asiaoils_46612.txt
金額ベースではたいした事ありませんが、これらの国々はそれまで基本的に相当額のネット買い越しだったのが今年の3月以降GSEを連続してかなり売りこしていることがわかります。もちろんその分国債は買っているという見方は出来ますが、いずれにしてもちょっと目立ちます。単にほかの直接投資系の見合いでリスクを減らしたという見方もできますが。
これらの国々はドルペッグ制度を採用しており、ドル下落によって自国への過剰な資本流入による経済のゆがみを生み出すことになるため、ドルの買い支えを行うわけですが、通常はそのために自国の通貨を供給せねばならず、インフレを招きます。だから本来はドルペッグなど止めたいはずなのですが、それをされると米国はドルの買い手(つまり米国証券の買い手)を失うことになるため、なんとか阻止したいと思うでしょう。いずれにしても今後多額の資金が要る米国にとって「お金(ドル)持ち」の国々からそれを還流してもらうことは一大使命です。そのためには彼らがエージェンシーを売らなくても済むような状況にしてあげる必要はあると思います。
同じことは日本や中国に対しても配慮すべきことですが。ましてや、ロシアが台頭しているなかで、米国以外でそれを押さえられる唯一の大国中国ですから、そこが大量に持っているGSE債券をリスクにさらすことなど出来るわけがないと思います。最近のグルジア問題での中国の存在感がこうした雰囲気を後押ししたかもしれません。
もう一つ気になるのは、欧州での出来事です。ご存知のとおり欧州中央銀行は先週の木曜日レポの適格担保のうちABSなど一部につきヘアカット(担保掛目による担保価値削減率)を大幅に引きあげ(2%→12%)ました。問題となっていたカバードボンドについては変更は無かったようですが、無担保銀行債や理論値評価の債券なども追加ヘアカット(5%)の対象となったようです。このおかげで為替が大きく動いた(つまり欧州の金融機関のリスクが高まる)といわれています。
考えてみれば「建前上」米国GSEの保証するMBSも単なるABSの一種であり、ECBと平仄を合わせるなら、FRBは今の短期貸し出しスキームなどでの担保掛け目について説明に窮する可能性があります。ECBがこの時期に担保の見直しを行った理由については諸説あるわけですが、いずれにしても中央銀行のバランスシートについての議論が高まっている中ですから、同じようなことをFRBに類推された場合、エージェンシー担保での貸し出しのところに目が行くのは自然ではないでしょうか?そのため、取り急ぎGSEについての政府の関与(暗黙ではなく事実としての保証)を明確にし、担保としての高い価値を保証しておく必要があったのかもしれません。そして7月の立法により幸いポールソンにはその権限がありました。(但し、ECBが担保掛目を変更したのは、あまりにも目に余るような借り手のやり方、つまり昨年8月の危機以来の状況で流動性のなくなった資産を証券化して(つまりABSやCDOなどにして)ECBに持ち込むケースが増えたためといわれていて、そもそも背景が違うだろうというのが通説ですので、念のため。)
そもそもGSEについてはここのところアドバイザーについた某投資銀行から資産内容についてあまりよからぬ報告が出されただの、フレディマックが予定していた55億ドルの増資はどうなった、とかやはり自力更生が難しい方向でのニュースが流れつつあったわけですから、ポールソンとしてはそれらのことが大きく取り上げられる前にいろんな意味で先手を打ったと考えるべきでしょう。いろんなコメントにあるように、共和民主両党の大統領候補が決まり、きちんと今後について話をする相手が二人に絞られたというのも時期的に重要だったのでしょう。いずれにしても、収益を目指す公開企業としての立場とアメリカンドリームを支える公益的企業としての役割の自己矛盾あるいは利益相反に耐え切れなくなった結果の幕引きということでしょう。
ここから先は愚痴です。
ポールソン長官、お願いだから週明け東京が開く直前に重大発表は止めてください(涙)。どうせやるならまず自分たちの市場で影響を試してから海外に送ってください。まえもそうでしたが、東京市場を実験場にするのはかつての●●実験とおなじ・・(以下自主規制)。
この記事へのコメント
とりあえずは一息といったところで・・・
ただ、どうなんですかね?? というのが個人的な感想です。わが国では何もしていないので、対岸に踊らされているだけで、今の適正日経平均水準が見えないですよね。12000円前後と言うのはあくまでも小泉さん前と変わらないわけで、賛否両論あるとは思いますが、ここ韓国のように国を挙げて何かしている姿は見えないですよね。ナスダック大して上げてないと思ったら、寄り付きは反落ですか(笑)
当面はここの先行き次第ですかね?
"http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPnJT823788620080908"
http://dbsb.blog116.fc2.com/blog-entry-61.html
今回の対策で一番不透明なのは、米国住宅ローン市場の将来像かもしれません。現在はGSEの資産規模縮小がうたわれ、政府が直接MBSを買ったりすることで補完していくのでしょうが、近い将来に民間金融機関による住宅ローンビジネスがしっかり回復してくることが期待されているのでしょうね。
はじめまして。「中国屋」の津上と申します。債券もデリバティブもよく分からない素人なのですが、ご教示を仰ぎたいことがあります。
世上「GSE債は合計5兆ドル以上あり、そのうち1兆5千億ドルは非居住者が保有している」と言われますが、今回の米国政府が採った措置により、5兆ドル全額の支払なり資産としての健全性がセキュアされたことになるのでしょうか。
ファニメ・フレディ両社のBSを見ると、固有の(?)の債務は合計しても1兆7~8千億ドルくらいしかないようです。それはセキュアされるのでしょうが、それと5兆ドルの差額の部分はどうなるのでしょう?おそらく複雑に証券化などが施された証券になっているのでしょうけど、どのようなステータスの資産になっており、今回の措置でセキュアされる性格のものなのか、皆目見当がつきません。よろしくお願いします。
おっしゃるとおり、今回の措置により5兆ドルを超えるファニメ・フレディマックの「債務」は優先債務、劣後債務を問わず支払いが約束されたと見られます。
ただご指摘のとおり、両社のバランスシートのうえでの「債務」は、両社が直接発行している債券が中心で金額は両方合わせてもおっしゃる程度の金額ですが、両社の業務としてさらに重要なものとして、住宅ローンを買い取り証券化したものをパススルーの形で販売すると言うのがあり、両社がこれに保証している形となります。(たとえばFREですとTotal PCs and Structured Securities issued)。いわゆるGSEのMBSといわれるのがこれです。
これらを足すと5兆ドルを超えることになり、もちろんこれらすべての元利金の支払いが約束されたと言うことです。
ちなみに財務省は「発行日、保証日のいかんを問わず」というステートメントを出しており、今後の発行分についても保証されることが明らかです。
早速のご回答ありがとうございました。保証分がdueになれば財務省のサポートありと言うことですね。よく分かりました。
貴ブログのポストや皆様のコメントはこういう分野に暗い小生にとって勉強になることばかりです。お礼申し上げるとともに、今後も期待しつつ拝見させていただきます。
それにしても、先週末はGSE、今週末はリーマン・ブラザーズ、いよいよたいへんなことになってきましたね。来週末には何が待っているのでしょうか。